TRICHORDの背景 - (1)何故スケジュール管理が難しくなっているのか

Author: Zenji Kanzaki(神崎 善司)
Published:2007-05-28

はじめに

本稿では、昨今のスケジュール管理の難しい現状の問題を整理し、そこからTRICHORDの背景に流れる、時間を中心としたスケジュール管理の考え方を3回に分けてご紹介します。

ガントチャートの世界観

最近ガントチャートベースでのスケジュール管理がうまくいっていないプロジェクトが多くなってきています。それは決してWBSの切り出し方が悪いとか、進捗管理が適切に行われていないという問題ではなく、そもそもガントチャートが表す情報やその前提となっているものが最近のプロジェクトの状況にそぐわなくなっている現実があるからです。それではガントチャートの世界観から見ていきましょう。

ガントチャートをベースにスケジュールをたてると自然に以下のような世界観が背景に存在すると考えています。

どれも当たり前の考え方ですが、その当たり前の前提事項が達成出来ない状況になっているのではないでしょうか。

何が変わってきたのか

それでは従来ガントチャートベースでスケジュール管理出来ていたものが、何故管理出来ないプロジェクトが増えてきたのでしょうか。それは適切なタスクの洗い出しが難しくなっていることと、タスクとして洗い出せたとしてもその依存関係が複雑であることが原因だといえます。読者の中にも実際にガントチャートでスケジュールを作成し、いくつかのタスクをこなしたところでスケジュールの変更を余技された経験をお持ちだと思います。実際に作業をしてみて初めて、洗い出したタスクでは不十分であったと気づくことがよくあります。

また時にはスケジュールを立てる段階では、細かな作業項目が分からず取りあえず大きなタスクを洗い出し、その中で分かる範囲で作業を行い、その結果によって次の詳細な作業を決めるような、スケジュールを組んだこともあると思います。このように現在のプロジェクトにおいては、ある作業を行ってはじめて必要な作業が見えてくることがたくさんあります。そのような状況の中では1ヶ月、2ヶ月先まで個々のタスクを緻密に組み立てることが難しくなっています。

根源的な圧力

なぜこのようにスケジュールを立てることが難しくなったかを考察してみましょう。図1は現在のプロジェクトが抱える問題をその依存関係をもとに構造化したものです。 根源的には以下の2つの変化が大きいと考えています。

そしてその結果コミュニケーションロスの増大と不確定要素の増大として、問題が表層化しています。

スピードアップ圧力の増大は並行作業を加速させ、ライブラリやミドルウェアの利用を促進しています。一方ソフトウェアの対象領域の増大も新しいライブラリやミドルウェアの利用に拍車をかけ、それに伴い様々なスキルを要求することから、多様なスキルの統合を迫られています。また、未経験な領域のソフトウェアの場合はゴールを定めにくく、プロジェクトのゴールを共有化することを難しくしています。同時に今までの開発では関わらなかったような関係者が増えることから、プロジェクトを構成するロールが増えることになります。それらは作業内容の複雑化や適切な管理項目の欠如として現れてきます。そして最終的にコミュニケーションロスの増大と不確定要素の増大へとつながっていきます。

例えばコミュニケーションロスを例に取ってみると、打ち合わせの時など何度議論してもなかなか相互に理解が得られないことがあります。これは今に始まったことではありませんが、最近はこの相互理解のために費やす時間(お互いの考えが理解できるまでの時間)が無視できないほど増えてきています。 このような状況がプロジェクトを混乱させ、現実とかけ離れたスケジュールが作られる要因になっています。この状況を打開するためにWBSを細かく出し、スケジュールを組み立てようと努力しますが、そもそも実際の作業が多様化し、一つ々のタスクを明確化することが困難な状況で、強制的にタスクを洗い出しても実態に即したものにはなりません。現在の開発では単純にドキュメントを揃えていけばシステムができあがるほど簡単なものではなくなっています。しかし、成果物を並べたスケジュールが今も主流であることに変わりはありません。

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[図1 問題の構造]

対処可能なものは何か

先に挙げた問題の構造を「作業環境」「作業項目」「管理対象」に分類したものが図2です。そしてスケジュール管理の対象として「作業項目」と「管理対象」があげられ、その中でも「適切な管理項目の欠如」と「作業の内容と関係の複雑化」への対応が中心になります。 目標は作業変更に柔軟に対応するプロジェクト運営の実現。そしてそれを可能にするための情報共有の促進と軌道修正を受け入れるスケジュール管理です。 「適切な管理項目の欠如」に対しては複雑化する管理対象を画一的な管理項目で対処するのではなく、階層化による複数視点での管理項目で対応します。また「作業の内容と関係の複雑化」に対してはメンバー間のコミュニケーションを円滑に行うことで、情報共有を密にし、状況の変化に素早く対応できるプロジェクト運営を目指します。そしてそれを実現するための柔軟なスケジュール管理がこの文章のテーマです。 そのスケジューリング上のポイントが時間を中心としたスケジュール管理への移行です。

images/bg2.png

[図2 問題の整理]

まとめ

本稿ではガントチャートの背景に流れる前提が、最近の開発では変ってきたという点、そして問題に対して対応可能なものはどれかという点について論じました。次回は時間を基軸とするスケジュール管理について解説します。

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